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作品制作によせて

 

 

 

 日本画であれ油彩画であれ版画であれ、すべての絵画表現に共通するものには、制作者が表現したい目的や表したいモチーフや訴えかけたい感情などがあります。人間がその知能と技術を使って平面上に刻み付けたい衝動が有り続ける限り、絵画的表現の無くなる事はないのでしょう。

 その中で、あえて私が「日本画」を選んだのは、絵具自体が持つ美しさと発色の良さにあります。粉末絵具(岩絵具)は油彩画には無いマットな美しさが魅力なのです。また、やはり自分が日本人であることや、育った風土や環境が日本画を描き続けることに影響しています。そして過去の日本画家が描いた作品から学びとることは数多くあり、普遍的なテーマ(生、死、苦、楽、喜、怒、哀)もそこには描き出されています。そういったことから、油彩画でなくても十分に普遍性を持った作品を描けるものと信じています。

 私の制作姿勢は、だからといって「日本画」の持つ固定概念に縛られていることを良しとはしません。従って、その表現形態がジャンルとしての区分けではなく、平面としての区分と捉え、従来からある日本画・洋画と区別することなく、日本人である「私」として感じたものを岩絵具や和紙や墨を使って描こうとすることにあります。それをつきつめていった先に、表現形態や文化や環境や言語の違う人達とも通じ合えるものがあると信じています。

 私も50代半ばとなり、一生の中で本当に出来る事はそう多くないんだと強く感じています。私が今まで経験したことや感じ得た事を、日本人が表し続けて来た技法を使って、つたなくとも真剣に追い求め、持続し続けていったなら、世代をこえて感じ取れるような作品が出来るのではないかという思いで制作を続けています。

 現在は、日本画の素材を用いながらもただ実景を描写するのではなく、心の記憶に刻まれた、見た事があるようで現実には存在しない風景などを、墨や金・銀・岩絵具などで描いています。「水平線」「水景図」シリーズでは水と島と大気という単純なモチーフで自然や感情や未来という漠然としたものを象徴的で幻想的な空間に表現しようと試みています。画面には相反する要素(人工と自然・期待と不安・彼岸と此岸・硬質と軟質・平面性と空間性・昼と夜)を取り入れて、より深い精神性を表したいと考えています。「瀧」シリーズでは、より神秘性と象徴性を強くして、信仰の対象とも捉えられる滝の強さを表現出来ればと思っています。

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